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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)255号 判決

原告 クリーン改窓株式会社

右代表者代表取締役 内山勝

右訴訟代理人弁理士 山内淳三

同弁理士 後藤田章

被告 佐渡島金属株式会社

右代表者代表取締役 樋本洋三

右訴訟代理人弁理士 藤本昇

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

「特許庁が昭和六一年審判第一二〇一八号事件について昭和六三年九月二九日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

二  被告

主文同旨の判決

第二請求の原因

一  特許庁における手続の経緯及び審決の理由の要点

別紙一記載のとおり。

二  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点(一)、(二)は認める。(三)(1)(イ)のうち、タイル用ジョイント金具(本件商品)が、タイル工事施工後の目地部の変形や破損防止のために目地部のジョイントとして用いられる金属製器具(金具)であることは認めるが、その余は争う。同(ロ)は認める。(三)(2)、(3)は争う。後記被告の主張(第三の二)の1の点は認めるが、審決は、本件商品が本件審判請求に係る指定商品に該当するか(取消事由(1))及び被告がその取引書類に別紙二(2)のとおりの標章(以下「本件標章」という。)を付して使用したことをもって本件商標の使用とみなせるか(取消事由(2))の点について認定判断を誤った。

1  取消事由(1)

本件商品は、商品区分(商標法施行令一条別表)第一三類の「金具」に属するものであって、同第七類の「金属製建築または構築専用材料」(同法施行規則三条別表下欄)に属するものではないから、この点に関する審決の認定判断は誤りである。

(一) 第一三類の「金具」は、金具に関する一般的、包括的概念として定立されたものであり、特に「それ自体単独使用されるものではなく何かに取付けて使用される」との機能面に着目して分類されたものであるから、そのような金具、殊に「ジョイント機能を有する付属的金具」が右分類に包含されることは明らかである。これに対し、本件審判請求に係る指定商品である第七類の「金属製建築または構築専用材料」は、前記別表下欄に具体的に列挙された商品名(金属製天井板、同壁板、同柱、同窓等)からも窺えるように、それ自体が建築又は構築の材料であるような商品を指称するものであると解される。

(二) しかして、本件商品は、これを使用するタイルこそ第七類の「建築または構築専用材料」に属するものとはいえ、それ自体の機能はタイルとタイルの間をジョイントする点に存するものであるから、まさに「ジョイント機能を有する付属的金具」に該当するものであり、これが文字どおり「金具」と呼ばれていることをも参酌すれば、本件商品が第一三類の「金具」に属するものと解すべきは明らかであって、他方、本件審判請求に係る指定商品である第七類の「金属製建築または構築専用材料」の商品概念には、その機能の点において本質的になじまないものというべきである。以上のように解すべきことは、甲第一三ないし第二〇号証の過去の審査例において、例えば、第七類の「建築または構築専用材料」であるパネル、板等に用いられる「パネスファスナー」「パネル止め金具」「結合金具」「ステイプル」が、第七類「建築または構築専用材料」でなく、第一三類の「金具」に属するものとされていることからも裏付けられるところである。

(三) そうであれば、本件商品が第七類の「金属製建築または構築専用材料」に属するとした審決の認定判断が誤りであるということは、明らかである。

2  取消事由(2)

本件標章と本件商標との間には同一性が認められないから、本件標章の使用をもって本件商標が使用されたものとすることはできず、したがって、この点に関する審決の認定判断も誤りである。

(一) 審決が指摘するように、簡易迅速を旨とする取引上の要請に基づき商品名の表現の簡略化が行われることは争わないが、本件標章中の「エキスパンカナグ」との語をもって、本件商品、すなわち「エキスパンション金具」の略称であるとする審決の認定判断は誤りである。すなわち、そのフルネームによる商品名(一般的名称)は「エキスパンションジョイント」または「エキスパンションジョイント金具」であって、「エキスパンション金具」ではなく、まして、これが一般に「エキスパン金具」「エキスパンカナグ」などと略称されているような事実はない。もし「エキスパンカナグ」が「エキスパンションジョイントカナグ」の略称であるとすれば、これは「エキスパンションジョイントカナグ」を「エキスパンションカナグ」と略称し、更にこれを「エキスパンカナグ」と略称した「二重の省略による略称」ということになるのであって、このようなものはもはや、本来の商品名の略称とはいえず、むしろ、被告の創造に係る造語というべきである。けだし、両者の間には、二重の略称「エキスパン」から直ちに原形の「エキスパンションジョイント」を認識できるほどの緊密な関係はなく、被告の主観的意図はともかくとして、一般的に考察する限りにおいては、両者が同一の対象(本件商品)を指称しているものとは到底解し得ないからである。このことは、「エキスパンションジョイント金具」の略称としては、一般に「ジョイントシール」「ジョイント」等「ジョイント」を基本にしたものが使用されている事実や、甲第二二、第二三号証によって明らかなように第七類を指定商品として「EXPAN」「エクスパン」との商標が登録されている事実からも裏付けられる。

(二) そして、本件標章が本件商標と実質的に同一のものであるとするためには、審決も認めるように、本件標章のうちの「エキスパンカナグ」の部分が、その使用に係る商品(本件商品)を特定した商品名であるとの前提が肯定される必要があるところ、そのような前提を肯定し得ないことは前記のとおりであるし、本件標章が、別紙二(2)からも明らかなように、同一書体で、かつ同一の大きさからなる片仮名文字で一連に表示されていること、前記のとおり、「エキスパン」との語は「クリン」とともに被告の創造した造語とみるべきことに照らせば、かえって、本件標章においては、「クリン・エキスパン」の部分が一体として自他商品識別の標識を構成し、残る「カナグ」の部分が当該商品を特定しているものとみるべきである。

被告は、「クリン」なる商標は、被告のタイル製品関係の総称として需要者、取引者間に周知著名である旨主張するが、仮にタイルについてその点を肯認し得たとしても、本件においては、本件商品(タイル用ジョイント金具)との関係での周知著名性こそが問題とされるべきところ、その取引量が少ないことからして、右商標が本件商品との関係でも周知著名であるとは到底考えられない。

(三) そうであれば、本件標章と本件商標とは、その外観、称呼等を異にし、両者が実質的にも同一のものと認め得ないものであることは明らかであるから、これを実質的に同一であるとした審決の認定判断は誤りである。

第三請求の原因に対する認否及び被告の主張

一  請求の原因一は認め、二は争う。

二  被告の主張

1  本件商品は、甲第八号証に撮影されたとおりのもので、タイル工事施工後の目地部の変形や破損防止のために目地部のジョイントとしてのみ用いられる金属製器具であるところ、被告は、本件審判の請求の登録前三年以内に、日本国内において、本件商品に関し、その取引書類(甲第四、第五号証)に別紙二(2)のとおりの標章(本件標章)を付して頒布した。

2  取消事由(1)について

(一) 特許庁商標課編「商品区分解説」(昭和三五年六月初版、昭和五五年四月改訂版発行・乙第四号証の一ないし四)によれば、商品区分第七類の「建築または構築専用材料」は、「用途主義」に基づき分類されたものであって、「専ら建築又は構築に使用される材料のうち、セメント製、木製、石材製、ガラス製のものを除いたものがこの概念に属する」、「“専用材料”という意味は、専ら建築又は構築に用途を限定したものとして取引される材料のことである」とされており、一方、第一三類については、「この類は……通常金物店で販売されるものを集めた類で……この意味で販売店主義に基づく類といえる」、そのうち「金具(他の類に属するものを除く。)」は、「それ自体単独で使用されるものではなく、何かに取り付ける性質の金属製品がこの概念に含まれる」が、「他の類に属するものは除外され……例えば「戸車」「ちょうづかい」等の建築材料……は第七類建築または構築専用材料に……属する」とされている。

(二) ところで、原告は、「それ自体単独で使用されるものでなく、何かに取り付ける性質の金属製品」がすべて第一三類の「金具」に属するかのごとき主張をしているが、そのような解釈は、右「商品区分解説」のみならず従来の商標実務にも反し、客観的妥当性を欠くものである。本件商品は、二つのタイルの間の伸縮用空隙(目地部、エキスパンションジョイント部)に架橋状に使用される金具で、専らタイル(これが第七類の「建築または構築専用材料」に属する旨の原告の主張は認める。)の施工という建築または構築用にのみ使用されるものであって、このような用途に限定されたものとして取引され、その販売も、タイル等の販売業者によってなされ、一般の金物店で販売されるようなことはないのが実状であるから、前記「商品区分解説」の記載に徴しても、本件商品が第七類中の「金属製建築または構築専用材料」に属するものであることは明らかというべきである。他方、第一三類の「金具(他の類に属するものを除く。)」との関係でいえば、本件商品は、そのうちの「(他の類に属するものを除く。)」との規定に該当する。なお、以上のように解すべきことは、乙第五ないし第七号証において、金属製接続具、金属製型枠の締付具等が、第一三類の「金具」ではなく、第七類中の「金属製建築または構築専用材料」に属するとして登録されていることからも明らかである。

(三) そうであれば、本件商品が第七類の「金属製建築または構築専用材料」に属するとした審決の認定判断は正当であって、原告主張のような誤りはない。

3  取消事由(2)について

(一) 前記のとおり、本件商品は、タイルとタイルの間のエキスパンションジョイント部(目地部)に使用される金具であって、本来は「エキスパンションジョイント金具」と称すべきところ(そのフルネームによる一般的名称が原告主張のとおり「エスパンションジョイント」または「エキスパンションジョイント金具」であることは認める。)、それでは全体が冗長に過ぎることから、被告は、これを「エキスパン金具」「エキスパンカナグ」と略称しているものであって、そのことは、取引者、需要者間においても十分認識されているところである。

(二) そして、本件標章は、別紙二(2)のとおり、片仮名文字の「クリン」と「エキスパンカナグ」の間に両者を構成上分離するためのピリオド「・」を付し、「クリン・エキスパンカナグ」と横書きしてなるものであって、そのうち、前段の「クリン」は、被告のタイル製品関係の総称(ハウスマーク)として需要者、取引者の間に周知著名の商標であり、後段の「エキスパンカナグ」は、その使用に係る商品を指称するものであること前記のとおりである。したがって、本件標章の要部は「クリン」の部分にあるというべきであり、これを本件商標の構成(別紙二(1))と対比するときは、本件商標と外観、称呼等が共通するものであることが明らかであるから、結局、本件標章と本件商標とは、取引社会の通念上、実質的に同一のものというべきである。

(三) そうであれば、本件標章の使用をもって本件商標の使用に当たるとした審決の認定判断は正当であって、この点についても原告主張のような誤りはない。

(なお、被告は、「金属製タイル」に本件商標を使用していた旨を本件審判手続において主張したが(審決の理由の要点(二))、本訴においては右主張はしない。)

第四証拠関係《省略》

理由

一  請求の原因一の1(特許庁における手続の経緯、本件商標の構成、指定商品等)、2(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

二  取消事由に対する判断

1  取消事由(1)について

(一)  商標法の定める商品区分(商標法五条一項三号、六条、同法施行令一条)は、商標登録出願に際しての出願人及び審査の便宜を図るという行政的見地から取引市場に流通する商品を分類したものであるが、右分類内容を明らかにした同法施行令一条及び同法施行規則三条の各別表を通覧するとともに、右区分に関する行政解釈を示す特許庁商標課編「商標区分解説」の記載を参酌すれば、本件で問題となる第七類の「金属製建築または構築専用材料」及び第一三類の「金具」については、次のとおり解するのが相当である。すなわち、前者の「金属製建築または構築専用材料」は、第七類の中分類中「建築または構築専用材料」に包含されるが、「専用材料」とされていることからも明らかなように、用途により分類されたものであって、その文理等に照らし、専ら建築又は構築用に用途が限定されたものとして取引市場に流通する材料のうち金属製の物を意味すると解すべきであり、一方、後者の「金具」は、第一三類の中分類中に、手動利器、手動工具とともに「金具(他の類に属するものを除く。)」として分類されたもので、前記施行規則別表の第一三類下欄に列挙された商品名からも窺われるように、概ね金物店で販売されるのが通常である物を集めたものと解されるところ、「金具」という用語の一般的な字義や同下欄の「金具」の項に列挙された商品名に徴すれば、「それ自体単独で使用されるものではなく、何かに取り付ける性質の金属製品」を意味する包括的概念である(ただし、括弧書きの「除く」規定により、他の類に属するものは除かれる。)と解される。

なお、原告は「金属製建築または構築専用材料」は、金属性の柱や壁のごとく、それ自体が建築又は構築の材料であるような商品を指称する旨主張するが、そのように限定すべき根拠のないことは、前記施行規則別表の第七類下欄の「金属製建築または構築専用材料」の項に列挙された商品名中に「金属製ちょうつがい」「金属製戸車」が掲げられていることに徴しても明らかである。

(二)  そこで、本件商品の属すべき商品区分について検討するに、本件商品が、甲第八号証に撮影されたとおりの構成からなり、タイル工事施工後の目地部の変形や破損防止のために目地部のジョイントとしてのみ用いられる金属製器具であること及びタイルが第七類の「建築または構築専用材料」に属することは当事者間に争いがないところ、右によれば、本件商品は、専ら、「建築または構築専用材料」であるタイルを用いた工事に際し、タイルとタイルとの間の目地部のジョイントとして用いられる専用器具であって、タイルを使用した建築又は構築物の構成部分となるものであるから、本件品もまた、建築又は構築の専用材料と認められるものであり、また、そのように限定された用途のものとして市場に流通するものであることは明らかというべきである。そして、これが金属製であることも前記のとおり当事者間に争いがないから、本件商品は、第七類中の「金属製建築または構築用材料」に属するものと認めるのが相当である。

もっとも、原告は、本件商品は第一三類の「金具」に属するものであるとして縷々主張するところ、たしかに、本件商品は、前記のように、タイルとタイルの間のジョイントであるから、これを機能面よりみれば、原告主張のように「それ自体単独で使用されるものではなく何かに取り付ける」性質の金属製器具ということができ、その意味で第一三類にいう「金具」の概念に包含されるものといい得るが、前記のように、第一三類の「金具」の概念に属するものであっても他の類に属するものは除かれるものであることが括弧書きの規定により明定されているところであり、また、本件商品においては第七類に属すると解すべきこと前記のとおりである以上、原告の右主張は採用の限りでないというほかない。原告は、右主張の裏付けとして、《証拠省略》を援用し、第七類の「建築または構築専用材料」であるパネル等に用いられるパネルファスナー等が第一三類の「金具」に属するとされた登録査定例がある旨主張するが、当然のことながら当裁判所の判断がこれら査定例に拘束されるものでなく、また、必ずしも、本件の判断に当たり参酌すべき適切な事例とも認められないから、これらの証拠をもって右原告の主張の支えとなし得るものではない。

(三)  そうであれば、本件商品をもって第七類の「金属製建築または構築専用材料」に属するとした審決の認定判断は正当であるから、原告主張の取消事由(1)は理由がない。

2  取消事由(2)について

(一)  被告が、本件審判の請求の登録前三年以内に日本国内において、本件商品に関し、その取引書類に別紙二(2)のとおりの構成からなる標章(本件標章)を付して頒布したことは当事者間に争いがなく、同別紙及び前記のとおり本件商標の構成を示すものであることにつき当事者間に争いのない別紙二(1)によれば、本件標章の外観は、通常のタイプ活字と思われる片仮名文字で、同一の大きさの「クリン」の三文字と「エキスパンカナグ」の八文字の間に両者を構成上分離するためのピリオド「・」を付し、これを横書きしてなるものであるのに対し、本件商標の外観は、縦の線を肉太にした片仮名文字で、同一の大きさの「クリン」の三文字を横書きしてなるものであることが認められる。

(二)  しかして、本件標章の「クリン」と「エキスパンカナグ」との間には右のとおりピリオドが付されているから、外観上は「クリン」と「エキスパンカナグ」の文字部分が分離して観察されるところ、原告は、審決が、そのうち「エキスパンカナグ」の文字部分について本件商品の商品名を特定したものである旨認定した点を誤りである旨主張している。しかしながら、簡易迅速を旨とする商取引の実際においては、一般に長い名称の一部を省略して呼称する傾向があることは当裁判所に顕著な事実であるところ(このことは原告自身も争わないところである。)、本件商品のフルネームによる商品名(一般的名称)が「エキスパンションジョイント」又は「エキスパンションジョイント金具」であることは当事者間に争いがなく、右によれば、そのフルネームは字数にして一三字ないし一五字(金具を片仮名書きするときは一六字)からなり、これを称呼又は記載するうえで、全体が冗長に過ぎることは明らかであり(「クリン」との商標と合わせて用いるときは一層そうである。)、また、略称をする際に、冒頭部分を残し末尾部分を略することは日常多く経験するところであること(例えば、テレビジョンを略してテレビと称するごとし。)を考慮すれば、本件標章中「エキスパンカナグ」の文字部分は、その構成、語調、語感に照らし、本件商品の商品名である「エキスパンションジョイント」の名称からみればこれを「エキスパン」と略したうえ、それが金属製であることから、これに「カナグ」を付して略称としたものと解し得るのであり、「エキスパンションジョイント金具」の名称からみれば、それ自体の略称と解し得るのである。そして、本件標章が使用される商品は、前記のように、タイル事施工の際にタイルとタイルの間の目地部分に用いられるジョイント用金具であって、その取引者、需要者は主としてタイル工事に専門知識を有する者であると認めて差支えないものというべきであるから、右略称は、いずれも取引者、需要者間において通用性のあるものということができる。

右のような略称を原告主張のように「二重の省略による略称」と呼ぶか否かは別として、問題は省略形態が二重であるか否かにあるのではなく、それが略称として通用し得るものであるか否かにあるのであって、かかる観点からみれば、原告の「二重の略称」を理由とする「造語」に関する主張が採用できないものであることは、すでに説示したところから明らかであり、第七類を指定商品として「EXPAN」「エクスパン」なる商標が登録されている等のその余の原告主張の事情も前記判断を左右するものではないというべきである。

(三)  そうであれば、本件標章中の「エキスパンカナグ」の文字部分は、審決指摘のとおり、商品を特定するために使用されているものであって、商品の出所を識別するための標識として使用されているものではないというべきであるから、本件標章において、商標として自他商品識別力を認め得る部分は、「クリン」の文字部分のみであると認められる。なお、原告は、本件標章においては、「クリン・エキスパン」の部分が一体として自他商品識別の標識を構成していると解すべきであるとも主張するが、前記のとおり「クリン」と「エキスパン」の間にピリオドが付されているにもかかわらず、原告主張のごとく、本件標章を「クリン・エキスパン」と「カナグ」に分けて理解すべき理由は見出しがたいというほかないから、原告の右主張も採用できない。

そこで、前記(一)で認定したところに従い、本件商標と本件標章中商標と認め得る「クリン」の部分とを対比すると、両者は、字体の点においてやや相違があるものの、両者とも片仮名の字体として特に特異な字体とも認めがたいから全体としてなお外観をほぼ共通にするといい得るものであり、その他、称呼等の点でも共通することは明らかであるから、本件標章は、これに「エキスパンカナグ」という商品名と認め得る文字が付されているものの、本件商標と取引社会の通念上同一のものと認めることができる。

(四)  したがって、この点に関する審決の認定判断にも何ら誤りはなく、原告主張の取消事由(2)も理由がない。

三  以上のとおり、原告主張の取消事由はすべて理由がないから、原告の本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 舟橋定之 小野洋一)

〈以下省略〉

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